イキトス(ペルー)Aquitos


アマゾンのジャングルを「緑の魔界」と人はいう

だがジャングルに魔物などいない

ヒトという残虐で狡猾で強欲で愚かな獣が……

People said, "Green Devil World"

But Amazon has no devil.Only tyrannicaly,tricky,

avariciously beasts live there. It's human.

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 「ダメダメ、もっと思いっきり水面を叩いて」アマゾンでのフライフィッシングは竿先で水面を叩くことから始まった。

 世界各地を駆け回っていると驚かされることが間々ある。だが、それでも相手はあくまでも魚。足音を忍ばせ、姿を潜めてポイントに近づくのは万国共通、常識である。それなのに、アマゾン、それも地平線のかなたまで大地が水浸しになる雨期には、釣りの常識なんてまるで通用しない。

 ここはアマゾン河口部のベレンから約3600キロ上流に位置するペルーのイキトス近郊。地図を見てもらえば分かるが、河口部の川幅が約320キロ、全長が約6300キロ、流域面積705万平方キロのとてつもない大河アマゾンの中流部、マラニョン川とウカヤリ川、そしてナポ川の分岐点に位置する。日本を北から南まで縦断した距離に匹敵するほど上流なのに海抜はたったの100メートルほど。

 ペルーの首都リマを飛び立った飛行機がアンデスの白い嶺を越えると熱帯雨林の濃厚な緑が視界に飛び込んでくる。雨期のせいか、低い雲が何層にも密林の上空を覆い、紅茶色やコーヒー色やミルク色のアマゾン支流が網細血管のように広がっている。まるで密林全体が地表を覆い尽くして鼓動する巨大な生き物のようだ。

    *       *

 約2時間ほど岸沿いに走った後、ミルク・ティー色の本流に別れを告げ、コーヒー色のヤナヤコ川に舳先を向ける。川幅は20メートルほどで、流れはまるで感じられない。周囲は熱帯雨林特有のひょろひょろと背ばかりがやたらと高い木々が枝葉を広げ、エスカレタデモナ(猿の梯子)と呼ばれる蔦植物が幾本もぶら下がっている。

 さて、ヤナヤコ川を遡ること30分ほどで、今回のベースとなるシンチクイ・ロッジに到着した。このロッジはジャングル探検を体験したいという物好きや昆虫採集家、バード・ウオッチャー、ナチュラリスト、お忍びカップル、アングラーなどが利用するロッジで、電気もなければ、水道も風呂もなしの、まんまサバイバル・ロッジ。川岸の森の一角を切り開き、高床式の椰子の葉葺きの小屋を数軒建てただけ。陸路は一切なく、どこに行くにもカヌーだけが唯一の足だ。

 ガイドは生まれも育ちもアマゾンの密林というクレーバ。ちょっと太り気味だが身のこなしは素早く、陽気な28歳独身。「釣れなかったら、夕食はバナナとコーラだけだよ」とクレーバにプレッシャーをかけられつつボートに乗り込む……