ゴールドリバー(バンクーバー島)
Gold River (Vancouver Is)
 
 
バンクーバー島の中央部に位置するゴールドリバー
松ポックリの様なボンバーが着水した瞬間
黒い影が走った
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 いつも思う。スチールヘッドは何でフライフィッシャーをあそこまで熱くするのかと。考えてみれば、数あるサーモン、トラウト族の中で、狙って釣れる確率は低い方から数えた方が絶対に早い。
 的確な情報さえあればキングサーモンやシルバーサーモンなんて簡単に釣れる。チャムサーモンやレッドサーモンに至っては、釣らないのが難しいことだってある。
 ところがスチールヘッドの場合、そうは問屋が下ろさない。「爆釣中だ!」といっても、十時間に一回ヒットすれば御の字だし、「渋い!」なんていわれた日にゃ、一日一匹どころか、一週間冷たい流れに浸かりっぱなしで一万回のキャストを繰り返してもノーヒット、なんてことが間々ある。
 端から見ればスチールヘッダーはフライフィッシャーの中のサディストかもしれない。でなければ自分に対する大嘘つきか、はたまた、鈍感で、夢見がちで、自信過剰で、楽天家で、自分勝手な大馬鹿ものかも知れない。それでなければ無意味なキャストを炎々と続けられるはずもなく、まして貴重な時間とエネルギーを注ぎ込むはずもない。
      *      *
 ボクの釣りは何時だって行き当たりバッタリってことが多い。五年前、初めてバンクーバー島を訪れたのも偶然みたいなもの。バンクーバーに向かう機内では漠然と北部のスキーナ水系を目指そうかな〜などと考えていた。だが、フライショップの太ったおばちゃんの一言で変わってしまったのである。
 おばちゃんの話しによると、スキーナリバーはすでにスチールヘッドのシーズンが終わり、ヴァンクーバー島のゴールドリバー周辺ならチャンスがあるかも、たとえスチールヘッドが駄目でもレインボーやカットスロートはメニーメニーよ、とのこと。
 ショップの情報なんて……などと言いつつ、メニーメニーなんて言葉には弱い。とりあえずフェリーに乗ってバンクーバー島に渡った。
 バンクーバー島は十月の紅葉シーズンを向かえると、すっきりと晴れ渡ったインディアンサマーと冷たい雨と風の日が交互に訪れ、熊や狐、白頭鷲や山猫たちは冬籠もりの支度を始る。そんな季節は天候が不安定なため、水量の予測がつかない。だが、幸いにも透明度は高く、チェストハイで難なく渡れる水量だ。
 7番ロッドにシンクティップラインをセットしてそっと河原に近づく。
 メープルの黄色い葉が漂う流れに黒く大きな魚影が揺れていた。岩陰からそっと忍び寄り、サクラマスで実績のあるウエットフライをプレゼンテーション。空中でゆっくりとターンしたフライが着水し、軽くメインディングを掛けた次の瞬間、その魚影が走った。
 水しぶきと同時にフライラインが水面を切り裂き、ロッドが弧を描く。ファースト・キャストでのヒットだ。リーダーは3X。無理なファイトは禁物。魚の動きにあわせて河原を移動する。リールのドラッグが悲鳴を上げ、圧倒的なパワーを誇示するかのように水面を突っ切る。そして、ラインの抵抗などものともせずに宙に舞った。
 一度、二度……。ぜい肉を削ぎ落とし、激流を泳ぐためだけに創られたようなシルバーの魚体。まぎれもなくスチールヘッドだ。
 魚にとって、釣り上げられるか否かは生きるか死ぬかの重大事。フックアップした瞬間にエネルギー供給を無呼吸代謝モードに切り替え、全身の体細胞をフル活用して逃走をはかる。そしてフライフィッシャーはそのエネルギーの爆発的鼓動をロッドとラインを通して感じ、今までの経験と技術と体力と運……持てる総てを注ぎ込んで対峙する。ゲームというより魚と自分の神聖な儀式のようなものなのだ……。
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