カラコルム Karakorum

世界の登山家たちを頑なに拒む魔の山K2

その氷河に覆われた過酷な高地に生息するトラウトたち

それは人間を拒絶するかのような気高さだ

K2 refuses mountaineers subbornly.
Trouts live in the harsh heights covered with glacier.
They are noble as they deny human.

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「神々の住む山」。国境を持たない山岳遊牧民たちは、彼らを見下ろすカラコルムの白い峰々をそう呼ぶ。K2、ガッシャーブルム、ナンガパルバット、チョゴリサ……。世界の高峰を惜しげもなく連ねた山脈群は、極限の陶酔感を忘れられぬ山男にとっても、水の妖精に魅入られた釣りびとにとっても聖なる高地だ。

 ボクがこの地の虜になってしまったのは、かれこれ35年ほど前。当時はコマーシャル写真家として厚化粧のモデルや雑多な商品相手にそれなりに稼いでいた。だが、世界を駆け回る民族写真家になりたいという学生時代の夢も捨てきれずにいた。そんなわけでカドのすり減ったニコンFを道連れに、ヨーロッパ、中近東、西南アジアなど世界各地を駆け回った。

 パシュトウーン族、ハザラ族、パンジャブ人、アラブ人、クルド族……。眼光鋭く精悍な顔立ちの人々に会うごとに、興奮と、衝激と、感激を胸にシャッターを切った。そんな中でボクを最も引き付けたのがパキスタン北西部のカラコルムだった。標高8000メートルの山並が連なる極限の高地に生きる山岳遊牧民たち。彼らに出会った瞬間に、今までにない衝撃と戦慄を覚えた。

 11時30分、南回りパリ行きのPIAは定刻に成田を飛び立った。途中、北京で給油の為に約1時間のトランジット。飛行機は給油と整備に手間取り、予定から40分ほど遅れて北京空港を飛び立つ。

 しばらくすると細かな傷のついた小さな窓にゴビ砂漠、天山山脈、タクラマカン砂漠、チベットなど、自然の大パノラマが広がってくる。そして、大地を黄金色に染めていた太陽が西の空に沈むころ、眼下にはグレーとシルバーの銀版写真のような、ネガティブなカラコルム山脈の雄姿が迫ってくる。遠くに視線を移すと、世界の最高峰K2が雲間から険悪な岩肌をむき出しにし、すべてを拒絶するような挑発的な雄姿をさらけだす。

 その驚異的かつ壮大な景色の呪縛からやっと解放されると、飛行機は徐々に高度を下げる。そして、眼下にオレンジ色の心許ない街灯りがちらつくと、そこはパキスタンの首都イスラマバードだ…