かれこれ60ヶ国以上釣り歩いているが、つい最近まで東南アジアは近くて遠い国だった。いつでも行ける、たとえ腰が曲がって杖に頼る歳になっても……、そんな考えが心の片隅にあったからだ。
ボクは常々年令に応じた旅があると思っている。若い内は寝袋ひとつをザックに詰めてとことん貧乏旅行を、足腰が丈夫なうちは体力の限界に挑むような未開地を、自他共に中年と認めざるえない歳になったらハリバートンのスーツケースが似合う地域を……などと。そう思っているせいか、このところアマゾン河やパプアニューギニアなど、過酷な地域に足を延ばすことが多かった。そろそろ自分の若さに限界を感じて焦っているのか、それとも単なる偶然なのか。ともあれ今回は初めてのフィリピンで大型クルーザーに寝泊まりしつつ4泊5日釣り三昧の日々を過ごす機会が舞い込んできた。嬉しいような悲しいような、複雑な心境である。
場所はダイバーに絶大な人気のスルー海。狙う獲物はGT(ジャイアントトレバリー/和名ロウニンアジ)、バラクーダ、イソマグロ……。いずれもゲームフィッシャーなら一度は抱き締めてみたいリーフの暴れん坊たちである。
フィリピンについては今さら解説の必要もないと思うが、スルー海の位置関係を多少説明しておこう。ご存じのようにフィリピンは大平洋の西に位置し、環大平洋火山帯に属する大小7107の島からなる群島国。そんな無数の島の中で北はミンドロ島、東はパナイ島とネグロス島、南はミンダナオ島とマレーシア、西はパラワン島に囲まれた広大な内海ともいえるのがスルー海。内海とは言っても東西700キロ、南北900キロに及び、熱帯モンスーンの吹き荒れる時期は猛然と牙を剥く海域である。今回はそんなスルー海を東のセブ島を起点に西のパラワン島まで横断するダイバーとアングラーの混成ツアー。
夜はひたすら移動し、日中はほとんど手付かずの小島やリーフで釣りとダイビング。なにせ“過去にこのクルーズに参加したグループでトータル100匹以下の記録は無い!”とツアコン氏が断言するGTの宝庫。1日に23匹というフィジーでの数釣り記録を塗り替えることができるか、はたまた28キロという八重山諸島での自己レコードを更新することができるか!?
午後3時、成田を定刻に飛び立ったフィリピン航空のジェットはオレンジ色の街灯が瞬くセブシティから15キロほどのマクタン島に巨体をおろした。簡単な入国審査を済ませて一歩外に出ると、アジアの、いや南の島特有のちょっと生温く熟し過ぎた果実のような甘ったる空気がボクの鼻孔をくすぐる。
出迎えのマイクロバスに乗り込んだアングラーは総勢7名。参加者中3人は初めての海外遠征で、内2人はGT初体験。だがしかし出発の直前まで各メンバーは霞ヶ浦でキャスト&ポッピングの猛特訓。手にはキャストダコ、疲れ果てて寝入った途端にラインシステムで悪戦苦闘する悪夢にうなされる、というほど。プレッシャーに負けなければ良いのだが……。
深夜、クルーザーはセブ島に沿って漆黒の海を南下する。2日前にミンダナオ島を擦すめて北上した台風の影響で海上はうねりが強く、巡行スピードは7ノット弱。
明け方、クルーザーの揺れが変化し、続いて錨を下ろす金属音が船室に響いてきた。セブ島の南端の沖合いにあるスミロン島に到着したようだ。デッキに出てみると外は厚い雲に被われ、横殴りの強風が吹き抜けている。ともあれ熱いコーヒーで眠気を振払い、タックルを抱えてフィッシングボートの準備が整うのを待つ……
協力/フィッシングプランニングオフィス