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 ヨーロッパで「ギリー」と言えば、専属の釣りガイドのこと。

「ただ単に魚を釣らせるだけじゃ半人前。ご主人さまのお酒の好みが分かって一人前」と言われる厳しい世界。

 有名なギリーになると、信頼すべき筋からの紹介がなければ予約もできず、たとえ紹介があっても五年先まで一杯、なんてことがある。

 北大西洋に浮かぶアイスランドは、アトランティックサーモン(大西洋サケ)の本場とあって、世界中からVIPなアングラーが集まってくる。

 王侯貴族、政治家、有名アーチスト、実業家、高級官僚……。

 普段なら、秘書やら執事に一声掛ければ何でも思い通りのVIPたちも、気まぐれなサーモン相手に悪戦苦闘。ギリーにあれこれ指示されながら、「富と権力と名声も、魚相手じゃ、役に立たんな~」などと、ため息ももれる。

 ギリーは担当のご主人さまが決まると、朝から晩まで付きっきり。

 足下もおぼつかないご主人様が大物を掛けたりすると、すかさずランディングネット(網)を差し出し、必要とあらば、冷たい川に飛び込んだりもする。

 もちろん、毎朝、新聞に目を通し、国際情勢や経済問題のチェックも忘れない。なにせ、不手際があっちゃ、国際問題になりかねない。

 すごいのはギリーだけじゃない。ホテルは日替わりで有名シェフを招き、最上級の料理をふるまう。そして、ゲストたちはディナーを味わいつつ、その日出会ったサーモンの話で優雅な時を過ごす。

 いやはや、日本にも「大名釣り」なんて言葉がある。だが、なんとも、最近のお大名は釣りよりマネーゲームの方がお好きなようで……。