シングー川はカンブリア紀、つまりは五億年前の地殻変動でできた堅い岩盤を流れ下っているため、一般的なアマゾンのイメージとはかなり違う。両岸に迫っているのは熱帯雨林ならぬ不毛の岩盤。黒くゴツゴツとした溶岩帯である。水は透明度が高く、流れはカヤック競技やラフティングに挑戦したくなるほど変化に富んでいる。
流域にはインディオ居住地が点在し、部外者が無断で釣りをしていると、どこからともなく弓矢が飛んでくることもある。また、ガリンペイロと呼ばれる砂金採りの家族に出会うことも多い。雨期に上流から運ばれて堆積した黄褐色の土から砂金を採るのである。
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川を遡ること三時間。シングー河畔を見下ろす高台のロッジに到着した。シングー川中流域で唯一のロッジだけあって、レストラン、プールバー、そして客室が四棟ある。ま、レストランといっても椰子の葉で屋根を葺き、床板を張って周りに腰の高さまで板を張り巡らせただけ。椅子もテーブルもプラスチックのガーデン用。部屋も同じくシンプルだが、アマゾンの奥地にしては立派で、水シャワーやトイレなどの設備だって整っている。
ただ、このロッジの屋根にはタランチュラが住み着いている。体長十センチから二十センチで、全身に細かな毛が生え、いかにも危ない雰囲気。だがしかし、今まで客が刺されて寝込んだとか、死んだなんて話しは聞かない。従業員だって退治する素振りがない。考えてみればタランチュラという呼び名は大きな蜘蛛の総称。本当は毒などなくて、ゲストを喜ばせるための心憎い演出のひとつかもしれない。
翌朝、タックルを積み込み、さらに上流を目指す。だが、乾期の終盤で水量が少なく、河幅は一キロほどもあるのに通過できる場所はごく限られている。おまけに、そんな場所は流れが速く複雑で、底は大岩だらけ。船外機が止まったり、スクリューが岩に当たったら渦に巻き込まれて一巻の終わり。
流心、大岩の陰、流れの脇、滝壺、シャロー……。どこにキャストしても魚が飛び出てくる。だが、ポイントによって明らかに魚たちが棲み分けしている。
流れの穏やかな水深一メートル弱のフラットにポッパーをキャストすると、淡水のシーラカンスといった感じの怪力トライロンが猛然と噛みついてくる。一度や二度の合わせミスなんて平気。同じポイントで同じ魚がフックアップするまで何度でも出てくる。
流れの脇にマドラー系のストリーマーをキャストすると水玉模様のツクナレパッカや黄色に黒のツクナレコモンが我先にアタックしてくる。アベレージは一キロ前後と物足りないが、ときたま三キロクラスも顔を出すので気が抜けない。
瀬の下の速い流れにミノー系のストリーマーをキャストすると淡水カマスの一種、ビクーダがフライを猛然と引ったくる。アベレージは60センチ弱だが、ジャンプ力は半端じゃない。二段跳び三段跳びは当たり前。時には勢い余ってボートを飛び越えることだってある。
流れに覆い被さるように枝を広げた巨木の下にボンバーをキャストすると木の実や水草を主食にしているパクーがのっそりと出てくる。見た目はタナゴが巨大化したような感じで、2キロ3キロは当たり前。時には10キロを超えるモンスターもいる。
さらに流心をエビーウエイトの大型ストリーマーで攻めると鋭い牙を持ったアマゾンの暴れん坊カショーハが噛みついてくる。なにせ、飛ぶは走るはフライラインの抵抗などモノともせず、カヤック選手でも躊躇しそうな流れを縦横無尽に暴れ回る。
ピラニアも強烈なファイターだ。特にシングー川のピラニアは「ピラヤ」と呼ばれる特大サイズ。ダークグレーの躰に朱色の頬。アベレージは50センチを優に超え、剥き出しになった歯はエポキシで何層にも強化したフライのヘッドをあっさり噛みちぎる。ただ、フライフィッシャーにとってちょっと嬉しいのは、脂ビレがあること。人相に似合わない可愛いのが背ビレの後ろにちょこんと付いているのである。ちなみに一メートルのが目撃された……、なんて噂を聞いたことがあるが、そうなるともう化け物。どうやってランディングするか考えただけで腰が引ける……