アラスカ Alaska

圧倒的なパワーでアングラーを魅了するチヌーク。

アラスカではシーズンになるとローカルラジオ局からサーモンの遡上予報が流れ……

In Alaska , everybody talks about King salmons when the season comes.

And they blow hot and cold about it.

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 ベストシーズンのアラスカのサーモンフィッシングはつまらない。「観光ついでにチョット立ち寄ってみたの」なんて人にも、「イヤダー、私、初めてなのー、ウッソー、キャー、スゴーイ」なんて新婚カップルにも簡単に釣れてしまう。

 なにせ、遡上するサーモンの主な種類だけでも、チヌーク(キング)、ソッカイ(レッド)、チャム(ドッグ)、コーホー(シルバー)、ハンピー(ピンク)などサーモンの見本市が開けそうなほど。そこにレインボー、スチールヘッド、ドリーバーデン、カットスロート、グレイリング、アークティックチャー、ホワイトフィッシュなどが加わる。それをヘリコプター、フロートプレーン、ボート、トローリング、ハーリング、餌、ルアー、フライ……。ありとあらゆる手段と方法を講じて釣るのである。誰にでも釣れて当然。だからつまらないのである。

 いやいや失礼。申し訳ない。ボクの知り合いにはアラスカに17回も通ったあげくに婚期を逃した女性がいるし、キーナイにフィッシングロッジを買った土地成金のおっさんもいる。たかだか数回、それもキーナイ半島から出たこともなく、ここ数十年足が遠のいているボクが偉そうなことをいえる立場じゃない。日本の4.5倍、原生林と氷河に覆われたラストフロンティアに対して失礼でもある。

 実際、レインボートラウトやアークティックチャーは宝石のように美しく、体高もあって素晴らしいファイターだ。スチールヘッドやドリーバーデンだってそう。四季の織りなす大自然の景観も、そこに生息する動物たちも素晴らしい。時間と予算が許すなら今すぐにでも飛んでいきたい気分だ。

 さて、アラスカのサーモンの代表格といえばキングサーモン。現地名チヌーク、和名はマスノスケ。鮭科鮭属の中では最も大きく20キロ30キロは当たり前、時には40キロを越える文字通りのキングもいる。ハンピーが4キロ前後、ソッカイが5キロ前後、チャムやコーホーが10キロ前後なので、その大きさは他のサーモンの比じゃない。おまけにチヌークはアラスカに住んでいても一匹釣れれば隣近所の話題になるほどで、よほどの幸運と大枚の投資が必要である。先にアラスカのサーモンフィッシングはつまらないと書いたが、チヌークに関しては別格。

 ベーリング海をクルーズしていたチヌークがふるさとの川に遡上し始めるのは5月末から8月。基本的には南部の河川から北部の河川へと徐々に北上して行く。川によってはファーストラン、セカンドラン、場合によってはサードランまで遡上にズレがあり、海にいる期間が長いぶんだけ後半に遡上するサーモンの方が大きい。

 サーモンの遡上時期が迫ると、ラジオから「〇〇川にサーモンの遡上開始」「〇〇川は〇月〇日の予定」などとサーモンの遡上予報が流れてくる。そうなるとアラスカの河川は、右を向いても左を向いてもまるでお祭騒ぎ。ロッドを手にした老若男女から、グリズリー、白頭鷲、イタチ、キツネ、はたまた産卵したイクラを狙うレインボートラウト、グレイリング、カットスロートなど、あらゆる生き物たちが川面をよぎるサーモンの影に一喜一憂する。

 グリズリーは泡だつ激流に勇敢に踏み込んでサーモンを手掴みし、白頭鷲は大空から急行直下して鋭い爪で掴み、イクラを狙う小魚たちは尾ビレで川底の砂利をかき分けるサーモンの産卵をいまや遅しと待ち受ける。そして岸辺に立ったアングラーは、ルアー、イクラの塊、スピングロウ、フライ、日頃の欲求不満、ストレス、古女房、お役御免の亭主……。何もかも水中に投げ込む……