シカゴで本場モノのちょっと古めかしいブルースにどっぷりと浸かり、音楽は雰囲気だよなやっぱり、などと納得しつつサンフランシスコ目指してルート90を飛ばした。
リンカーンやワシントンなどの歴代大統領の巨大な彫像で有名なラピッド・シティを抜け、バッファローに到着。そして地図を覗き込み、ボクは悩んだ。帰国前の最後の釣り場を、イエローストーンにすべきか、それとも一発大物が期待できるフラミング・ゴージにすべきかと。なにせ1カ月余りの旅も後半、両方を攻めるだけの日程は残されていない。結果、あまりに有名なイエローストーンに背を向け、ワイオミングとユタの州境に位置するフラミング・ゴージに向かうことにした。
ビッグホーン・リバーに沿って南下し、ウインド・リバー・マウンテンを越えてフラミング・ゴージの北の外れの街グリーンリバーに到着した。早速、フライショップに飛び込みフラミング・ゴージの地図とパンフレットを入手する。
安モーテルにチェックインし、ベッドにその地図を広げて驚いた。なにせ延長80キロ以上、平均水深が30メートル、最深部は120メートルにも達する。ワールド・レコードを次々と塗り替えるような超大物が釣れるのも納得。だが、同時に戦意喪失、途方にくれてしまった。
なにせ周囲は断崖で道もなく、多くのクリークが流れ込んでいるものの、流れ出しには近づけそうもない。たとえボートを借りるにしても、ポイントに着くころには日が暮れてしまいそうだ。おまけに平均水深30メートルじゃフライフィッシングなんて及びじゃない。現地に着いて、想像していたイメージと違うことが間々あるが、ここまで違うとかえって悔いが残らない。早々にフラミング・ゴージを諦めて、フラミング・ゴージ・ダム下のグリーン・リバーに挑むことにした。
タックル・ショップで入手したパンフレットには、毎年五月中旬の週末にフィッシング・トーナメントが開催され、人気急上昇中だと書いてある。
フラミング・ゴージ・ダム脇の道路を一気に下ると、ダム管理事務所の駐車場がある。そこの守衛に釣りに行くむねを報告し、足がすくむほど急な断崖絶壁を徒歩で下る(船を持ち込む場合はいったんダム下まで車で降りてボートを降ろし、車だけを駐車場に戻す)。足下から川を覗き込むと、ラフト・ボートやフローティング・チューブが泡立つ流れをものともせずに下って行くのが見える。そして、流れの穏やかな部分に立ち込むフライフィッシャーと、その足下に群れるトラウトの姿も。
ボクは岸辺の大岩に腰掛け、タックルをセットする。腰まで流れに立ち込んだフライフィッシャーが流れの底でサスペンドしているトラウトを果敢に攻めている。その先ではボートに乗り込んだガイドとその客が流れの比較的緩やかな場所を上ったり下ったりしつつ、ニンフを流している。キャスティングもおぼつかないビギナー客相手に、オールを漕ぐガイドは四苦八苦している。
このところアメリカではフライフィッシングが大ブレークしている。証券アナリストや投資家、芸術家、俳優、政治家、ジャーナリスト……、ともかくパーティーの席でフライフィッシングの話題は欠かせない。ビジネスマンの必須アイテムでもある。アメリカは歴史が浅いせいか、骨董品にも目がない。どんな田舎町にもアンティーク・ショップが一軒、二軒はあるし、ホームパーティーに招待されたりすると、リビングが西洋骨董で足の踏み場もない、なんてことがある……