パウエル湖 Lake Powell

グランドキャニオンの水源レーク・パウエル。

自然界の織りなす男性的な風景の中で

ラストチャンス湾に最後の望みを託す……。

L. Powell is a fountainhead of the Grand Canyon.
In this masculine scenery, anglers challenge again and again.

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 アングラーは『ラストチャンス』という言葉に弱い。日がな一日、すべての獲物に見放されたときにも、小物やら外道ばかりで本命の獲物に巡り合えないときにも、暗闇迫る水面に向かって、「今度こそ正真正銘のラストチャンスだ!」などとつぶやきながら、何度目かのラストキャストを繰り返す。

 1996年春、ラスベガスからグランドキャニオンに向かう途中で1人の写真家に出会った。同業のよしみであれこれ情報交換していると、彼女、興奮も冷めやらぬ調子で曰く、「レイク・パウエルの日没と日の出、あれって絶対に神様の贈り物よ!」と。

 ユタ州とアリゾナ州にまたがるレイク・パウエルは、コロラド・リバーがグレンキャニオン・ダムによって堰き止められてできた周囲約250マイルの広大なダム湖である。 

 グレンキャニオン・ダムは1963年、アメリカに環境保護に関する法律が施行される前に建設された。ロサンゼルス、ラスベガス、フェニックスなど1500万人に電力を供給する一方、このダムの出現によってグランドキャニオンなど下流部では様々な問題が起きた。水温の低下による栄養分の減少、塩分濃度の上昇、川底の変化などである。それによって在来種のボニーテールチャブ、レザーバックサッカーなどの小魚が絶滅してしまった。

 1970年代以降、環境保護活動家たちは政治家やダムの運用をしている機関に対して様々な運動を繰り広げ、1996年に環境保全のための人為的な『洪水』を発生させるテスト放水を開始した。『洪水』という言葉の響きは天災を連想させてしまうが、実際には自然界では当たり前のこと。川は生きている。蛇行して流れることで淵やトロ場、急流や浅瀬といった、水辺に生きる動植物に欠かせない寝床や食料を提供する。洪水も自然のサイクルの中で必要不可欠、それによって様々な生態系が維持されるのである。

 実際、この人為的な洪水によって川底の砂が岸に移動して河原を形成し、多くの生き物たちに住処を提供する効果を上げたという。

 さて、ダムに関する講釈が長くなってしまったが、肝心のパウエル湖の話に戻そう。湖の周囲は屏風のようにそそり立つ黄褐色の岩に縁取られ、無数のクリークやキャニオン(渓谷)が鋭角な口を開けている。そして最深部500フィートに及ぶというジンクリアの湖にはラージマウスバス、ストライプバス、コイ、レインボー、ブラウン、ノーザンパイク、ブルーギル、クラッピー、サンフィッシュ、ナマズなど、多種多様な魚たちが潜んでいる……