エバーグレーズ
Everglades
 
 
フロリダ半島の南端部に位置する
米国最大の湿原地帯エバーグレーズ
そこはアングラーと野生動植物のパラダイスだ
This is the biggest wetlands in U.S.
A paradise for anglers and plants and animals.
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 眼前を悠然と泳ぐ巨大スヌークを前に、ロッドを握りしめたボクは緊張のピークに達していた。スヌークがフライに飛びつく瞬間を今や遅しと待ち受けていたのである。そして、その瞬間を狙い澄ましたようにボートの後方でただならぬ音がした。
「ブフォーッ!」一瞬の虚を突かれたボクは慌てて振り返った。すると濁酒のように白濁した水面から豚のごとき鼻が突き出ている。そして、その大きな鼻孔から鼻水まじりの空気が吐き出されたのである。豚が水浴びするなんて話は聞いたこともない。カバがフロリダにいるはずがない。水面に目を凝らすと、ずんぐりした象牙色の巨体がわずかに透けて見える。なんとその正体はマナティだったのだ。
 ここはフロリダ半島の南西部一帯に広がる亜熱帯性の大湿地帯エバーグレーズ。総面積70万平方メートル。動植物や野鳥たちの楽園としてはもとより、マイアミやキーウエストを舞台にしたアクション映画やハードボイルド小説には欠かせない中南米産麻薬の中継基地、海のフライフィッシング発祥の地でもある。
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 見渡すかぎりアシとマングローブの生い繁った湿地帯が広がり、その中を迷路のごとき水路が毛細血管のように入り乱れている。当然、遊歩道なんてあるはずがない。やたらと騒音を撒き散らすエアボートや底のフラットな小型ボート、カヌーなどが移動の足となる。だが、湿地帯に一歩分け入ると目印なんて気の利いたものは一切ない。おまけに至るところにアリゲーターが目を光らせ、ついでに片時も攻撃の手を緩めないモスキート軍団が新鮮な血を待ち受けている。
 ちなみに、フロリダ半島といえば、でっぷりと太ったフロリダバスやターポンばかりが話題に上るが、ロングノーズガーやフロリダスポッテッドガー、アリゲーターガーなど、二億年も前の古代魚が当時とほとんど変わらぬ姿で生息していることでも知られている。また、湧水の豊富な湖沼の洞窟には100年もの寿命を誇るザリガニがひっそりと暮らし、カミツキガメやワニガメ、アメリカンアリゲーターなど、進化から取り残されたような生きものも多い。
 ちなみにロングノーズガーは体長2メートルを越え、ワニの頭とパイクの胴体を併せたような姿をしている。鱗は鎧のように固く、卵は毒性があることで外敵から守られ、繁殖力も強い。また、エラ呼吸と同時に肺呼吸もできるため、水が枯れても一日は生き延びることができる。これらの古代魚が生き残ったのには、他にも理由がある。それはフロリダ半島の地層が石灰岩であり、その石灰岩によって濾過された湧水が豊富なミネラルやカルシュウム分を含んでいるため、餌となる生物を育むのである。
 フロリダスポッテッドガーは、運河や水路、湖沼などで頻繁に見かける。バスやブルーギルの外道としてルアーやフライフィッシングで釣れることも多く、二億年も生きてきた古代魚に気軽に触れられるのもフロリダ半島の魅力である。ただし、ファイトは流木のようで、皮膚の感触もハ虫類のようで、狙って釣るような対象魚でないことは断言できる……
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